設計ノート

宿題を始められない ——「やる気」の問題にしなかった理由

解けることと、始められることは、別の問題です。設計で触れられるのは、後のほうだけでした。

宿題のプリントが、テーブルに開いたまま15分たちました。鉛筆は手の中でくるくる回っています。

その問題、昨日やりました。わかっているのは確認ずみです。

解けないのではありません。始められないだけです。

「まず1問目だけやってみよう」

「あとで」

「できない」ではなく「始められない」

学習のつまずきは、つい「理解できていない」と考えてしまいます。でも実際には、もっと手前で止まっていることがあります。「やっていない」から「やり始めた」に移る、その一歩です。

この二つは、必要なものが違います。解けるかどうかは、理解と練習の問題。始められるかどうかは、その子の目に、それがどれくらい大きく見えているかの問題です。

「今日はこのページを終わらせる」と言われたとき、子どもの頭に浮かんでいるのは20問ではありません。終わりの見えない時間です。終わりが見えないものを、人は後まわしにします。意志の強さとは、あまり関係がありません。大人が確定申告の書類を前にして動けなくなるのと、同じことです。

ここから先は、アプリの中でこれをどう扱ったかの話です。「やる気を出させる」ほうは、設計で触れませんでした。触れられるのは、始めるところの重さだけだと考えたからです。

どこで終わるかを、先に見せています

算数シューターとストループカラーのラウンドは、10問です。授業1コマではありません。始める前に、どこで終わるかがひと目でわかります。

紙の宿題でも同じことができます。「このページを終わらせて」ではなく「まず3問だけ」。「単語を覚えて」ではなく「このかたまり、5つ」。大事なのは数の少なさより、終わりが本人に見えていることのほうです。

まちがえたときの代償を、下げました

これは1つ目より語られませんが、たぶん、もっと大事です。

「まちがえたら減点される」「まちがえたら連続記録が途切れる」「まちがえたら最初からやり直し」——そう知っている子は、鉛筆を持つ前に、まずまちがえたら何を失うかを計算します。その計算そのものが、始めたくない理由になります。

だから10問のラウンドでは、1回目にまちがえた問題が、ラウンドの最後にもう一度だけ戻ってきます。戻るのは最大1回で、そこでもう一度まちがえても、並び直しません。「できるまで繰り返し」にすると、直すこと自体が新しい罰になるからです。

減点はありません。途切れる連続記録もありません。

空けた日は、なかったことになりません

「3日休んだら、ためたものが消える」と知っている子は、4日目に戻ってきません。戻りたくないからではなく、戻るには、まず失ったものに向き合わないといけないからです。

なので、何日か空けても、リセットも巻き戻しも起きません。学習でためたコインとスターで魚を育て、水槽を飾る——その進み具合は増えるだけで、減りません。今日3問やったなら、明日やらなくても、それは3問のままです。

夢中にさせるしくみには、二つの半分があります

人を夢中にさせるしくみは、じつは二つに分けられます。始めやすくする半分と、やめられなくする半分です。

私たちが使ったのは、前の半分だけです。うしろの半分——終わりなく続くこと、途切れたら終わりの連続記録、毎日戻らないと損をするしかけ——は、意識して入れていません。

いちばんわかりやすいのが、ごほうびゲームです。1日に遊べる回数に上限があります。学習のミッションを終えるとその日の上限が1回ふえますが、上限そのものは製品版では外せません。外せるようにしてしまうと、「学んだぶんだけ遊ぶ」という前提が崩れるからです。

もっと「やめられない」作りにすることも、できました。そうしなかったのは、始められない子に対して、設計から足せるのは、始めやすさのほうだけだと考えたからです。

今晩、ひとつだけ試せること

「宿題やりなさい」を、「まず3問だけ。終わったらやめていいよ」に置きかえてみてください。

大事なのは後半です。やめていい、と先に言うこと。終わりが見えていれば、始めるのは怖くありません。

3問で本当にやめてもかまいません。今晩その子がノートを開けたなら、それは今晩10問多く解いたことより、ずっと大きなことだと思います。前者は明日になり、明後日になります。後者は、今日の20分で終わってしまいます。


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